2026年10月10日、群馬県は渋川市の養豚場で家畜伝染病「豚熱(CSF)」の感染が確認されたと発表しました。飼育頭数は約2,800頭に上り、地域経済および国内の豚肉供給への影響が懸念されます。しかし、今回の発生において最も注目すべきは、今年5月に改正された家畜伝染病予防法に基づき、群馬県が「選択的殺処分」の適用方針を示した点です。

これは、静岡県、そして昨日第一報をお伝えした愛媛県に続く、全国で3例目の適用事例となります。以前当メディアで報じた『【豚熱初適用】愛媛・大洲市で国内初の「選択的殺処分」が始動!全頭処分回避が示す養豚経営の新たな生存戦略と、現場が今すぐ備えるべき実務対応』でも触れたとおり、改正法がもたらす「全頭処分回避」の仕組みは、養豚経営の存続において極めて重要な分岐点となります。本記事では、渋川市での発生状況の速報とともに、選択的処分の実務プロセスや、現場の農家が今すぐ講じるべき備えについて専門的視点から解説します。

群馬・渋川の養豚場で豚熱(CSF)確認、2,800頭規模

群馬県によると、10月10日に渋川市内の養豚場から「飼育豚に異常が見られる」との通報があり、県が立ち入り検査を実施。遺伝子検査(PCR検査)の結果、同日夜に陽性が確定しました。

当該農場は、繁殖用施設と離乳用施設の2つのエリアに分かれており、計約2,800頭の豚が飼育されていました。群馬県はただちに対策本部を設置し、発生農場からの移動制限(半径3km以内)および搬出制限(半径3〜10km以内)を設定。周辺農場への感染拡大を防ぐための消毒ポイントの設置など、迅速な初期対応に乗り出しています。

全国3例目となる「選択的殺処分」の適用方針

今回、群馬県は「選択的殺処分」の適用方針を固めました。これは、2026年5月の改正家畜伝染病予防法の施行によって可能となった新たな防疫措置です。

従来の制度では、農場で1頭でもCSFの感染が確認されれば、飼育されているすべての豚(全頭)を殺処分することが義務付けられていました。しかし、選択的殺処分では、以下の条件を満たす場合に限り、感染豚や同居豚、あるいはワクチン未接種の豚など、感染リスクが極めて高い個体のみを対象に殺処分を行い、健康かつ適切な免疫(ワクチン抗体)を持つ豚の生存を認めることができます。

  • 適切なワクチン接種が実施され、台帳等の記録によって証明されていること
  • 飼育エリア(豚舎等)が物理的・衛生的に区分され、動線が分離されていること
  • 継続的な臨床検査および遺伝子検査により、他のエリアへのウイルス浸潤がないと確認されること

群馬県は、発生農場がこれらの要件を一定程度満たしていると判断し、国の疫学調査チームとも連携しながら、具体的な殺処分対象個体の選定を進めています。これが実施されれば、静岡県、愛媛県に次ぐ全国3例目の先進事例となります。

過去の全頭処分(今年2月)との違いと農家へのインパクト

群馬県は全国有数の養豚県ですが、今年2月にも県内の農場で豚熱が発生し、その際には約2,000頭が全頭殺処分されるという痛ましい事態に見舞われました。全頭処分が農家に与える打撃は壊滅的です。飼育してきた優秀な種豚の血統が途絶えるだけでなく、殺処分・消毒後の経営再開(再導入)までに1年以上の歳月を要し、その間の収入は完全に途絶えます。

これに対し、今回の「選択的殺処分」が適用されれば、感染リスクのない健康な豚を農場内に残すことが可能となります。これにより、以下のような劇的なメリットが生じます。

  • 経営の早期復旧: 生き残った豚をベースに早期に出荷や繁殖を再開できるため、事業休止期間を数ヶ月単位に短縮できます。
  • 経済的損失の最小化: 手当金による補償はあるものの、全頭処分に伴う間接損失(顧客離れ、雇用維持コストなど)を防ぐことができます。
  • 市場・流通への影響緩和: 群馬県産豚肉の供給能力が維持されることで、チルド・フローズンを問わず、卸売価格の急激な変動や代替需要(輸入豚肉へのシフト)を抑制できます。

特に、近年は為替(円安)や海外市況(中国の買い控えに伴う欧米産豚肉のアジア流入など)の影響で、国内の養豚経営は厳しいコスト競争に晒されています。国産豚肉の安定供給体制を守るためにも、選択的処分の成功は極めて重要な意味を持ちます。

現場が今すぐ確認すべき「接種記録」と「動線分離」

今回の群馬の事例は、すべての養豚農家にとって「他山の石」ではありません。万が一、自農場で発生した場合に「選択的殺処分」の適用を受け、全頭処分を回避するためには、平時からの厳格な準備が不可欠です。現場の経営者・管理者が今すぐ見直すべき実務ポイントは以下の2点です。

1. ワクチン接種台帳と個体識別情報の「完全な一致」

選択的処分の前提条件は、生存させる豚が「確実にワクチン接種を終えており、有効な抗体を持っていること」です。

  • 接種年月日、接種頭数、使用したワクチンのロット番号を台帳に正確に記録する。
  • 耳標などによる個体識別と台帳のデータを紐付け、第三者(家畜保健衛生所など)が客観的に検証できる状態を維持する。
  • 接種漏れ(特に離乳後の子豚への適期接種)を絶対に発生させない管理体制を構築する。

2. 豚舎ごとの「動線分離」とバイオセキュリティの再構築

農場全体が一つの衛生管理区域として一体化している場合、一部の豚舎で発生したウイルスが全体に広がっているとみなされ、選択的処分の適用が難しくなります。

  • 繁殖舎と肥育舎、あるいは棟ごとの「動線(人・資材・車両)の物理的区分」を明確にする。
  • 各棟の入り口での専用靴への履き替え、手指消毒、器具の専用化を徹底する。
  • 野生動物(特に野生イノシシ、ネズミ、野鳥)の侵入を防ぐ防護ネットのメンテナンスを怠らない。

今回の渋川市の事例は、選択的処分という新たな武器が、日本の養豚防災においていかに現実的な防衛策になり得るかを実証する試みです。農家の皆様におかれましては、飼養衛生管理基準の遵守を今一度徹底し、万全の体制を整えていただくよう強く推奨いたします。

📚 参照リソース & ファクトチェック情報

  • 群馬県公式発表(2026年10月10日) – 群馬県ホームページ
  • 共同通信(2026年10月10日配信) – 「群馬で豚熱、選択的処分へ」

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